レッドオーシャン化しているWeb接客ツール市場。Web上の攻防が非常に激しく、面白い動きを見せています。

今回は、ゼンクラーク(Emotion Intelligence社) VS ecコンシェル(NTTドコモ社)のWeb接客ツールの攻防戦を取り上げたいと思います。

ゼンクラーク(zenclerk)のリスティング事例

例えば「ゼンクラーク(Zenclerk)」というサービス。Emotion Intelligence(エモーション・インテリジェンス)社が運営するWeb接客ツールです。

ゼンクラークは、競合サービスの「ecコンシェル」というブランド名キーワードを購入し、かつ広告文に利用しています。

実はこれ、商標権侵害にあたる可能性が高いことをご存知でしょうか?

キーワードを購入すること自体には問題はありませんが、広告文に利用することが問題となっています。

少しややこしいですよね。

他社のブランド名や商標登録されているワードを“広告文”に組み込むと、商標登録を保持している他社から警告を受ける場合があります。ECサイトを運営している立場としては、他社からの警告はあまり気持ちのいいものではありません。

今回は、クリーンに問題なくリスティング広告を展開していくために、覚えておいていただきたい商標に関するルールをご紹介します。

商標権に関わる基礎知識

ECサイトのプロモーションに有効なリスティング広告。コンバージョン率向上のためとはいえ、内容を精査せずに広告に記載していいわけではありません。

リスティング広告を展開する上で、広告主が覚えておかなければならないルールがあります。そして、そのルールについてお話しするために、避けて通れない話題が「商標権」です。まずは、商標権についての概要をつかんでおきましょう。

商標とは?

商標とは、展開している商品やサービスは、他社のものとは違うことを示す標識です。商標と登録しておくと、類似した商品が多数存在していても、埋もれることはありません。お米の銘柄や、ブランド名は商標の代表的な例です。

社名、商品名、サービス名、ブランド名など、様々なものが商標となり得ます。また、商標として登録されるのは、文字列だけではありません。図形や立体、音、動きなども商標として登録されることがあります。

商標権の侵害とは?

いわゆる「商標権の侵害」とはなんなのでしょうか。一般的には、類似した商品、サービスの展開が挙げられます。外観、印象などが類似していると、商標権を侵害しているとみなされる場合があります。

過去にロゴマークが類似しているとして、オリジナルの商標を持っている企業から申し立てがあった例は少なくありません。

リスティング広告における商標権の侵害

商標権についての概要はつかんでいただけたかと思います。では、リスティング広告における商標権の侵害とは、どういった問題なのでしょうか。

広告文の中に商標がそのまま使われている

リスティング広告の本文の中に商標として登録されているワードがそのまま使用されている例があります。

A社という企業名があり、商標登録されているとすると、「A社の料金に不満を感じていませんか?もしそうならお気軽にお問い合わせください」といったものです。

今回のゼンクラークの事例は上記ほどストレートではありませんが、広告文に競合のブランド名を使用しています。これにはどんな目的があったのでしょうか?ゼンクラークのマーケティング担当者の意図を想像してみたいと思います。

競合名キーワードはCVRが高く、CPCが低い!

リスティング広告を出稿されている方なら、言うまでもないかもしれませんが、自社と同じようサービスを検索しているユーザーへの広告表示は一般的なキーワードを購入するよりもCVR(コンバージョン率)が高い傾向にあります。

しかも、CPC(クリック単価)も低く、その結果、費用対効果の高いキーワードとなります。

ただし、ゼンクラークは競合サービス名をキーワード購入するのみではなく、広告文にも使用しています。これにはどんな狙いがあったのでしょうか?

キーワードを購入するだけでは広告が表示される可能性は低い! ~広告ランクの問題~

リスティング広告の掲載順位は入札単価のみでは決まりません。それが「広告ランク」です。まずは広告ランクの式から説明します。

広告ランク = CPC(入札単価) × 品質スコア・品質インデックス
※品質スコアはGoogle、品質インデックスはYahoo!の指標

つまり、広告掲載順位はCPCと品質スコア・品質インデックスの掛け算で決まります。品質スコア・品質インデックスは1~10あり、これが広告を掲載する上で非常に重要です。

例えば・・・

A社はCPCが100、品質スコア・品質インデックスが3あったとします。
その場合、広告ランクは300になります。

B社はCPCが50、品質スコア・品質インデックスが7あったとします。
その場合、広告ランクは350になります。

その結果、入札単価がA社の半分であるB社の広告が、A社よりも掲載位置が上位で表示されます。品質スコア・品質インデックスはの重要性がいかに高いか、お分かりいただけるかと思います。

ゼンクラーク(ZENCLERK)の狙いはココだった!?

あくまでECマーケティング改善思考の想像ですが、ゼンクラークの狙いは「品質スコア・品質インデックスの上昇」だったのではないでしょうか?

品質スコア・品質インデックスは広告のクリック率、広告文と検索クエリの一致率、ランディングページの関連性など、様々な要素があります。

一般キーワードで品質スコア・品質インデックスを上げるのであれば、広告文を工夫する以外に、ランディングページにキーワード(検索クエリリ)を含めることができますが、競合のサービス名の場合、普通は自社のページで使いません(使えません)よね・・・

つまり、競合のサービス名を購入しても、品質スコア・品質インデックスを上げるための方法が少なく、その結果、あまり広告が表示されないことが多くあります。

そこで、比較的変更が容易な広告文に、競合のウェブ接客ツールである「ecコンシェル」を含めたのではないでしょうか?
(あくまで、ECマーケ改善思考の想像です。)

これは広告ランクの構造を知らないとやらないことだと思うので、ゼンクラークのマーケティング担当の方はリスティング広告に詳しい人なのかもしれませんね。ただし、商標権侵害にあたる可能性が高いことは知らなかったようですが・・・

Google、Yahoo!のポリシーの比較と確認

リスティング広告を掲載するのは、Google、Yahoo!の検索ページです。

リスティング広告には守るべきルールがあるものの、分かりづらい部分も多々あるため、GoogleとYahoo!のガイドラインを確認しながら、慎重に取り組まなければなりません。

それぞれの検索エンジンは、商標権の侵害についてどのようなポリシーを持っているのでしょうか。

2社の共通しているポリシーを簡単にまとめると、「商標の権利を持っているサイドからの申し立てがあれば調査を行うが、基本的には権利者、広告主の間で解決するのが望ましい」というものです。また、Googleはキーワード出稿に関する調査は行っていません。

2社の実際のポリシーを確認してみましょう。

Google AdWordsのポリシー

”広告文で使われている商標用語は Google によって調査され、使用が制限される場合があります。制限された商標を広告テキスト内で使用している広告は掲載を許可されない場合があります。
キーワードで使われている商標用語は、商標権侵害の申し立てがあっても調査や制限の対象になりません。
Google は第三者間の仲裁を行う立場にないため、商標権所有者様には問題の広告主が他社の広告プログラムで同様の広告を掲載している可能性もふまえ、その広告主との間で直接問題を解決していただきますようお願いいたします。“

Yahoo!プロモーション広告の商標に関するポリシー

“商標権は、もとより「言葉」そのものをすべて排他的に支配(コントロール)することができる権利ではありません。
単に自身の登録商標を他者が入札しているという行為だけをもって商標権侵害は成立しません。
当社にご連絡をいただく前に、自身のご主張が法的に妥当なものか、専門家に相談する等して十分ご検討ください。
また、広告主の連絡先がわかる場合は、直接ご連絡をおとりいただき当事者間で問題を解決されますようお願い申し上げます。”

商標権を侵害するとどうなる

上述したとおり、Google、Yahoo!が行うのは基本的に商標権侵害の調査と制限のみです。しかし、商標権が法で認められた権利である異常、侵害することによって被るリスクはそれだけはありません。

権利者が補的措置をとり、訴訟が起こる可能性があります。裁判所の判決によっては、ECサイト側が大きなダメージを被ることも考えられるでしょう。少なくとも、広告の差し止めは免れません。

大きく扱われた事例・ルイヴィトン VS Google

ここでひとつ、商標権について争われた事例についてご紹介しましょう。

この話題は非常に大きな反響を呼んだということで有名です。

2010年、高級ブランドとして知られるLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは、Googleが販売している広告が商標権侵害にあたり、ネット上の偽造品販売を促しているとして提訴をGoogleに対して起こしました。ここで問題になったのが、Googleの広告であるAdWordsです。

Googleは、特定の検索語句にリンク可能な権利を小売店に対して販売しており、それはLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンでも例外ではありませんでした。

そして、偽造品販売業者がこれを利用しているとの訴えです。

この事例については、欧州司法裁判所がGoogleに対して、商標権侵害の責任を負うことはないという判断を下しています。同裁判所によると、Googleはあくまで広告の掲載場所であり、責任の所在はそれぞれの広告主にあるという見解が妥当であるとのことでした。

しかし同時に同裁判所は、Googleに対して商標権者が消費者の混乱を招く広告を取り下げるよう要求できるような打診も行っています。ちなみに、最高裁がGoogleのAdWordsへ判断を示したのは世界的に見ても初であり、当時EUに加盟していた全27カ国すべてに適用となりました。

なお、この判決はGoogleだけでなく、Yahoo!やMicrosoftなどが提供する検索エンジンについても適用となりました。

結果的にLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは敗訴となりましたが、多くのアナリストはこの判決が、商標権者の後退になると述べています。結果的に、商標権者はGoogleに対して商標権の責任を負わせることができず、個々の広告主と直接交渉を行わなくてはならなくなったと言えるでしょう。

商標を事前に知っておくために

上述したリスク回避のためには、広告文として掲載する文の中に商標が入らないようにする必要があります。
意外な言葉が商標として登録されていることがありますので、注意が必要です。商標を調べるためには、以下のような方法があります。

特許情報プラットフォーム

「特許情報プラットフォーム」は、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が運営するデータベースです。
特許、実用新案などが無数に登録されています。当然、商標についても登録されているので、リスティング広告を掲載する前の確認として利用できます。

使い方はとても簡単です。調べたい用語をテキストボックスに入力し、プルダウンメニューから「商標を探す」を選択して検索をかけるだけ。
関連する商標が、検索後の画面に表示されます。リスティング広告掲載前のチェックとして広く利用されていますので、広告の出稿前にはこちらで確認しておくといいでしょう。

キーワードプランナー(Google Adwords)

以前はワードの右に「TM」と表示され、商標として登録されている用語が一目でわかったキーワードプランナーですが、Googleのポリシー変更に伴い、TMが表示されなくなっています。

現在は、あくまでキーワード選定の基準として用いるのが主流です。リスティング広告を出稿する際は、上述した特許情報プラットフォームと併用しましょう。

コンサルタントの指示で広告を出して商標権を侵害してしまうケースも

広告とはいえ他社の商標として登録されているワードを使用してはいけないのは、ECサイトを運営している方にとって想像に難しくないはずです。

しかし、コンバージョン率の高い広告の出稿を目的とすると、商標登録しているワードが極めて有効なのは事実。他社がわざわざ商標登録という一手間を行っているのですから、当然と言えます。

近年増えているのが、ECサイトがマーケティングや販促などのコンサルティングを専門の企業に依頼し、結果としてリスティング広告で商標権を侵害してしまうケースです。上述したとおり、商標登録されたワードは訴訟リスクがあると同時に、大きな宣伝効果をもちます。そのため、戦略としてリスティング広告に含めることを推奨するコンサルティング会社が少なくないのです。

ECサイト向けの販促コンサルティングを行っている企業は多くありますが、こうした企業を利用する際には注意が必要です。リスティング広告の出稿では、コンバージョン率よりもまず訴訟リスクの回避を意識しなければなりません。

結局、ゼンクラーク vs ecコンシェルの件はどうなったの? 申し立ては有効な手段か

ecコンシェル関係者の方に本件について取材したところ、Googleに商標権侵害の申し立てを行ったそうです。その際、Googleから返信がすぐに届き、早急に対応してもらえたとのことでした。

以下、申し立て時のGoogleからの返信(引用)

” 申し立てでご報告いただいた表示 URL(zenclerk.com)を使用している広告につきまして、
「ecコンシェル」に関する調査が完了いたしました。
広告文でこの用語を使用している該当のURLの広告は、商標権侵害の申し立ての対象外の国や地域をターゲティングしている場合を除き、掲載されません。
商標権所有者様の商標に類似した用語を使用している広告の調査をご希望の場合は、
問題の広告のスクリーンショットとトラッキング URL をご提供ください。
詳しくは、商標に関するポリシーと商標権所有者様向けヘルプをご参照ください。
商標に関するトラブルシューティングでは、よくある質問の多くに対応しておりますので、併せてご利用ください。
以上、今後ともAdWordsをよろしくお願いいたします。
Google 法務サポート担当 ○○ ”


「商標権侵害の申し立ての対象外の国や地域をターゲティングしている場合を除き、・・・」というのが気になりますが、基本的に掲載はストップされたようです。
※たった今、「ecコンシェル」で検索したところ、ゼンクラーク(zenclerk.com)の広告は表示されていませんでした。問題は解決したようです。

いかがでしたか?

リスティング広告で守らなければならない、商標権のルールがお分かりいただけたかと思います。

今回、白熱してるウェブ接客ツール業界で、実際にあったリスティング広告の攻防戦(攻:ゼンクラーク、守:ecコンシェル)を事例として取り上げさせていただきました。

ECツールの中でもウェブ接客ツールはかなりの激戦区なので、このような戦い(今回は問題と言うべきでしょうか・・・)が起こっているんですね。

個人的に、今回のゼンクラーク(Emotion Intelligence社) VS ecコンシェル(NTTドコモ社) の件は、リスティング広告の商標権について改めて調べることができ、非常に勉強になりました。

→ “広告文”に商標権を持つワードを含めてはいけない(当然ではありますが)

各社のWeb接客ツールのリンクは下記です。
ゼンクラーク(Emotion Intelligence社)
ecコンシェル(NTTドコモ社)

単にコンバージョン率を考えるのであれば、商標登録されているワードを使用して広告を出稿するのもひとつの手段ですが、ポリシーに書かれている以上、強くおすすめできませんし、訴訟にまで発展したら自社のブランドを傷つけてしまう恐れもあります。

リスティング広告の出稿を考えているECサイト運営者の皆さんは、あらかじめ商標権に関する知識に触れておくようにしましょう。